西南女学院大学

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栄養学の歴史から

University of California, Berkeley校のKenneth J. Carpenter 名誉教授著「栄養学小史(A Short History of Nutritional Sciences)」およびシンポジウム記録「栄養学の考え方を変えさせた実験」の日本語訳を公開しています。 これらは、2006年3月まで、本栄養学科の初代学科長をお勤めになった水上茂樹先生(九州大学名誉教授)が、著作権者から正式な翻訳許可を得た上で、翻訳して下さいました。原文で読むのは「ちょっと敷居が高い」という方には必見です。

なお、水上茂樹先生は栄養学史だけでなく医学史の翻訳もなさっておられ、洋書講読の教材としても利用できるように対訳形式のWebページを公開していらっしゃいます。ご興味のある方はこちらもご覧下さい。

栄養学小史

訳者解説:  ここに翻訳した4論文は、アメリカのThe Journal of Nutrition 75周年記念として同誌に掲載された栄養学の歴史です。著者はUniversity of California, Berkeley校のKenneth J. Carpenter 名誉教授です。彼は1923年イギリスに生まれ、1948年にCambridge大学から栄養科学でPh.Dの学位を得ていて、1977年にカリフォルニア大学バークレー校の実験栄養学の教授になっています。ナイアシンや必須アミノ酸リシンの研究を専門としていますが、それ以上に栄養学史の研究者として著名です。著書にはThe History of Scurvy and Vitamin C (1986), Protein and Energy: a Study of Changing Ideas in Nutrition (1994), Beriberi, White Rice and Vitamin B (2000)などがあります。本学学生だけでなく広く栄養学に興味を持つ方々も利用できるようにと思って、翻訳をウェブに掲載したいとE-メールを出したところ、翌日には快諾のメールを頂きました。

基礎栄養学と応用栄養学で教える内容が解剖・生理学、生化学などや栄養教育論、臨床栄養学などとかなり重複するので、哲学総論を哲学史で勉強するように、栄養学の講義を栄養学史を中心とする可能性も考えました。しかし、満足な講義ができなかったので、優れた論文を紹介して誰でも読めるようにウェブに掲載することにしました。この論文およびこれに続いて掲載している「栄養学の考え方を変えさせた実験」を基礎栄養学の副読本として利用すると、栄養学を楽しく理解することができるでしょう。

長い論文ではありませんが、ふつうは大きく取り扱われないような個人や家族も取り扱っています。研究者の苦しみ、とくにアトウォーターと家族の悲劇、ゴールドバーグたちの自分を対象とした人体実験、など知らなかったことが少なくありません。栄養学史上最初の女性独立研究者であるロンドン・リスター研究所のハリエッタ チックのことを私はこの論文を読むまで知りませんでした。アカデミックなビタミン研究に続いて、第一次世界大戦直後の疲弊したウィーンでくる病の研究をして成果をあげ、第二次大戦後も栄養行政にも活躍しました。読者に女性が多いと思いますので、とくにコメントします。カーペンターの"ノーベル賞とビタミンの発見"も面白いですからお読みになることをお勧めします。

栄養学の考え方を変えさせた実験

訳者解説:  どんなに厚い本でも、栄養学の歴史をすべて書くことはできませんし、重要な発見ですら全部を紹介することはできません。「栄養学小史」の発表に先立って1995、1996年にカーペンターが中心となって、「栄養学の考え方を変えさせた実験」というシンポジウムが開かれ、1997年にJ.Nutr.に掲載されました。このウェブページはこの記録の全訳です。20の実験について生のデータが解説されているので、クロノロジカルに書かれた「栄養学小史」と一緒に読むと栄養学の進歩がよく理解できます。選ばれた研究はThomas KuhnがThe Structure of Scientific Revolution(1962)で パラダイム・シフト(paradigm shift)と呼んだような、栄養学において科学革命を起こした(または起こす可能性がある)研究です。緒論は科学史、科学哲学および20の論文についての簡潔な紹介です。ぜひ読んでごらんなさい。

栄養学の歴史の本を2冊だけ紹介します。1冊は東大医学部生化学教授でいらっしゃった島薗順雄先生が古希記念にくださった栄養学史(朝倉書店昭和53年)です。先生のご性格から理解できるように漏れや間違いの無い本です。とくに日本の栄養学の発展について参考になります。もう1冊はWalter Gratzer によるTerror of the Table: The Curious History of Nutrion (Oxford University Press, 2005)です。彼は生物物理学者でロンドンのKing's College の名誉教授です。タイトルから感じる内容とは違い、学問的にも優れている真面目な本です。イギリスの栄養学が中心となっているのは当然のことでしょう。この他に、彼のEurekas and Euphorias: the Oxford Book of Scientific Anekdotes (2002) も楽しい本です。ペーパーバックでも刊行されていますから、暇なときに楽しんではどうですか。

翻訳にあたって、人名、地名など固有名詞の仮名書きはなるべく常用されているものにしましたが、ときには岩波西洋人名事典に倣いました。たとえば脚気の重要な研究者Grijnsはフレインスとしました。オランダのGはGroningen(フローニンヘン)やHuygens(ホイヘンス)のように喉で発音しますし、二重母音ijはエイと発音するからです。最後にお願いです。正しく理解して訳す努力をしましたが、誤訳もあると思いますので、気がついたら教えてください。(水上


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