西南女学院大学

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13: 長生きするには飽食してはいけない!

The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Paper 13: To Live Longer, Eat Less! (McCay, 1934-1939)
Patricia B. Swan, Department of Food Science and Human Nutrition, Iowa State University, Ames, IA

リンク:栄養学の考え方を変えさせた実験 (原論文)


1925年にマッケー (Clive McCay) はイェール大学のメンデルのもとでポストドックとなった。ここでラットの長生きにたいする栄養の効果についての彼の古典的な研究に直接に関係する経験を積むことになった。彼は1898年にインディアナで生まれ、イリノイ大学において物理および化学を学んで学士となり、テキサス A&M大学で1年間化学の講師を勤めた。1923年にアイオア州立カレッジで生化学の修士となり、1925年にカリフォルニア大学バークレーでC.L.A. SchmidtのもとでPh.D.を授与された。彼は生化学の化学の面で強力なバックグラウンドを持ち、本質的にもっと生物学的な問題に転ずる意向を持っていた (Loosli 1974)。

イェールでメンデルの研究室における以前の実験 (Osborne et al. 1917)をマッケーは知った。これは食物摂取を制限した雌ラットはふつうに比べて老齢になっても繁殖できることを示す実験であった。マッケーは、何故もっと長く実験を行ってこれらのラットの生涯がどのくらい長くなるか調べなかったのか、とメンデルに尋ねた。メンデルは答えた。若いからマッケーがこのように長期の実験をするに適している、と (Loosli 1974)。

イェールに居るあいだに、長期休暇をとってメンデルのところで研究していたコーネル大学の畜産講座の長のL. A. Maynardと、マッケーは知り合いになった。Maynardはマッケーに感心して、彼を雇った。このようにして、彼は1962年に引退するまでコーネル大学に35年のあいだ勤めた (Loosli 1974)。

栄養と長生き

コーネルに移ってすぐ後に、マッケーはラットの寿命にたいする食物制限の効果について最初の研究を行い、1934年にまだラットの一部が生きているあいだに第一報を刊行した (McCay and Crowell 1934)。マッケーと共著者は栄養と寿命は関係するという長い間の見解を述べた(Darby 1990)。さらに栄養学は若い成長している動物にだけ注目し、成長したり年をとった動物を締め出していると、彼らは強調した。

彼らは書いた:”子供や動物の成長が最大になるように食べさせているときに、成長が遅いと長生きするという昔の理論を支持するデータを出すのは、少し異端者に近い (a little short of heresy) ように見えるかも知れない”。彼らは以前のOsborne et al.(1917)の研究および、タンパク質摂取がひじょうに低いマスは”成長しない[しかし生きている]が、成長するものの2倍長生きする"という自分たちの以前の観察を引用した。彼らは”成長にさいして生命維持に必須なあるものが消費される”という仮説を持った (McCay and Crowell 1934)。

したがってマッケーとクローウェルは彼らの動物群から雄と雌の106匹のラットを選び、3グループに分けた。離乳期からすべて同じnutrient-dense(訳注:栄養素がdenseの意味か?)の餌を与えた。しかし、グループIには食餌を制限しなかったが、他のグループ(II,III)には制限をした。制限は離乳期から(グループII)か、2週間後から(グループIII)とした。食餌制限ラットは約100日毎に一度ショ糖またはウシ肝臓をすべてのラットに与えて約10g成長させるまで、一定の体重に保った。

予報の1年後にこの最初の実験についての詳報が刊行された (McCay et al. 1935)。表1はこれらのラットの寿命を示している。食餌を制限せずに飼育された雌ラットは同条件の雄ラットよりかなり長く生きた(死亡時のメディアンは820日 vs 522日であった)。しかし、制限量の食餌を与えられた雄ラットは長く生き、ときには制限食餌の雌ラットより長生きをした。雄ラットは食餌制限および遅い成長で寿命が明らかに長くなったが、成長が遅い雌ラットの寿命は食餌制限で仮に長くなるとしてもあまり長くはならなかった。

表 1. ラットの食餌制限と寿命1

グループ 平均寿命 メディアン寿命

d
I 制限せず
  雄 (n = 14) 483 522
  雌 (n = 22) 801 820
II 離乳期に制限
  雄 (n = 13) 820 797
  雌 (n = 23) 775 904
III 離乳2週間後から制限
  雄 (n = 15) 894 919
  雌2 (n = 19) 826 894

1 McCay et al. (1935)より
2 動物室の温度が高くなりすぎて2匹の雌が若いうちに死亡した。これらは結果の計算に用いなかった。

表 2. ラット大腿骨の重量および密度への食餌制限の影響1

グループ 平均重量 密度

g
I 制限せず
  雄 (n = 11) 0.741 1.22
  雌 (n = 18) 0.540 1.21
II 離乳期に制限
  雄 (n = 7) 0.486 1.15
  雌 (n = 13) 0.398 1.13
III 離乳2週間後から制限
  雄 (n = 9) 0.484 1.09
  雌 (n = 10) 0.432 1.14

1 McCay et al.(1935)より

McCay et al. (1935) は種々の組織におよぼす食事制限の影響も観察した。彼らのもっとも顕著な観察は、食事制限したラットの骨の壊れやすさであった。彼らは骨によっては”解剖にさいしてボロボロになったのもある”と報告した。表2は死亡時における大腿骨の重さと密度についてのデータである。

食餌と長寿の関係についての確認

第2の実験でマッケーと彼のグループすべてのラットに制限食餌ラットが体重を丁度保つのと同量のnutrient-dense(訳注:栄養素がdenseの意味か?) の食餌を与えた。これは第1実験でnutrient-denseの食餌を無制限に与えられたのがコントロール・ラットの寿命が短くなったかどうか試すためであった。しかし、彼らはそれが原因でないと結論した。ラットの成長はショ糖、調理したデンプン、ラード (38:57:5) で調節し、コントロール・ラットは欲しいだけ食べさせた。さらにコントロール・グループは2つに分け、半分はタラ肝油を、半分は脂溶性ビタミン源として照射した酵母とカロティンを与えた。これらの異なる脂溶性栄養素は結果に大きく影響しなかったので、表3および表4の結果はこの2つの処理群を一緒にしている (McCay et al. 1939)。

表 3. ラットの食餌制限の期間と寿命1

死亡時の日齢
グループ 平均 範囲

d
I 制限せず2
  雄 (n = 17) 670 308-896
  雌 (n = 16) 643 404-965
II 300日まで制限
  雄 (n = 4) 865 805-1018
  雌 (n = 5) 811 555-1183
500日まで制限
  雄 (n = 5) 806 366-1103
  雌2 (n = 5) 990 793-1078
700日まで制限
  雄 (n = 4) 874 772-1025
  雌 (n = 6) 912 406-1320
1000日まで制限
  雄 (n = 5) 882 406-1320
  雌 (n = 4) 1033 815-1320

1 McCay et al.(1935)より
2 動物室の温度が高くなりすぎて2匹の雌が若いうちに死亡した。これらは結果の計算に用いなかった。

第2の実験は第1の実験の結果を確認し拡張するためのもので、106匹のラットで始めた。33匹はエネルギー量を制限せず、73匹は量を制限した。制限ラットの35匹は2回の暖房故障のために死亡した。300日に残った38匹の制限ラットは4つのサブグループに分けられ、300、500、700、1000日に無制限のエネルギー供給を受けた (McCay et al. 1939)。

制限食餌ラットのすべてのグループに、コントロール・グループより長生きの個体が含まれていた。もっとも長生きのコントロール・ラット(965日)が死んだときに摂取が制限された38匹のラットのうちの18匹が生きていた。食餌制限ラットは正常に食べることが許されると、1000日間食餌制限された個体を除いて成長するようになった。制限ラットはコントロールラットの正常サイズには達しなかった。

表 4. ラット大腿骨の重量および密度への食餌制限の影響1

グループ 平均重量 密度

g
I 制限せず
  雄 0.70 1.10
  雌 0.57 1.21
II 300日まで制限
  雄 0.63 1.18
  雌 0.45 1.13
500日まで制限
  雄 0.54 1.18
  雌 0.47 1.13
700日まで制限
  雄 0.55 1.15
  雌 0.39 1.11
1000日まで制限
  雄 0.38 1.06
  雌 0.37 1.03

1 McCay et al.(1935)より

表4は第二の実験におけるラットの大腿骨の重さと密度である。再び、両方とも食餌制限が長いほど減少する傾向があった。骨の成長(長さ)も測定し、著者たちは結論した。”雄の骨は摂取再開に雌より速く反応した。雄の骨は雌の骨より大きく成長する力を持っている”と (McCay et al. 1939)。

結論

マッケーはこれらの実験から得た結論を老化についての本の1章に書き (McCay 1939)、後に改訂した (McCay 1952)。”このことは、寿命は変えられるものであり長くする可能性が知られていないのと同じように、成長の遅い動物は正常に成熟した動物よりも長生きすることを、示した[原文:This indicated that the life span was flexible and that the possibility of its extension was unknown as well as that the retarded animals tended to outlive those that matured normally] ” (McCay 1952)。”2番目の実験は1番目の実験と本質的に結果は同じであり、成長が遅いことは本質的なものであった” (McCay 1952)。彼はさらに続けた:”もしもこれらのデータからヒトに対して指導するとしたら次のように言うであろう:’食べなければならないものを食べなさい、その後で食べたいものを食べなさい。しかし、食べ過ぎないように’”。

マッケーの科学的な研究は第二次世界大戦の間の軍務によって中断されたが、戦後に彼はラットその他の動物の老化と寿命にたいする栄養の影響の研究を続けた。学生たちが特によく覚えていたのは、数年のあいだ彼が行った栄養学史についての講義であった。これらの講義は彼の死後刊行された (McCay 1972)。彼は1967年に心臓発作によって死亡した。

文献

Darby, W. J. (1990) Early concepts on the role of nutrition, diet and longevity. In: Nutrition and Aging (Prinsley, D. M. & Sandstead, H. H., eds.). Alan R. Liss, New York, NY.
McCay, C. M. (1939) Chemical aspects of aging. In: Problems of Aging (Cowdry, E. V., ed.), chapter 21. Williams & Wilkins, Baltimore, MD.
McCay, C. M. (1952) Chemical aspects of aging and the effect of diet upon aging. In: Cowdry's Problem of Aging (Lansing, A. I., ed.), chapter 6. Williams & Wilkins, Baltimore, MD.
McCay, C. M. (1973) Notes on the History of Nutrition Research (Verzar, F., ed.). Hans Huber Publishers, Berne, Switzerland.
McCay C. M., Crowell M. F. Prolonging the life span. Sci. Monthly 1934; 39:405-414
McCay C. M., Crowell M. F., Maynard L. A. The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size. J. Nutr. 1935; 10:63-79
McCay C. M., Maynard L. A., Sperling G., Barnes L. L. Retarded growth, life span, ultimate body size and age changes in the albino rat after feeding diets restricted in calories. J. Nutr. 1939; 18:1-13
Osborne T. B., Mendel L. B., Ferry E. L. The effect of retardation of growth upon the breeding period and duration of life of rats. Science 1917; 45:294-295

(訳者 水上茂樹)

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