西南女学院大学

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18: 新生ブタにたいするショ糖とフルクトースの毒性

The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Paper 18: Toxicity of Sucrose and Fructose for Neonatal Pigs (Becker et al. 1954)
David H. Baker, Department of Animal Sciences and Division of Nutritional Sciences, University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, IL

リンク:栄養学の考え方を変えさせた実験 (原論文)


McRoberts と Hogan (1944)は液体合成ミルク(100gの乾いた固体あたり30gショ糖、30gカゼイン)を産まれたばかりのブタに与えたところ、ビール酵母またはウシ肝抽出物の形で”不明の因子”(ビタミン)を加えても、状態が良くなく下痢をしたと報告した。続いてBustad et al. (1948)は同様な合成ミルクを産まれたばかりのブタに与えた。ショ糖の代わりに乳糖を与えてもブタはひどい下痢をおこし22日以上は生きなかった。1949年にS.R.JohnsonはデトロイトにおけるFASEB学会で生後2日のブタは乳糖かグルコースを含む合成ミルクでは生きるが、ショ糖を炭水化物源として与えると重症の下痢を起こして死亡するという抄録を提出した(Johnson 1949)。不幸なことに、この抄録にはほとんど詳細な記述が無く、詳報は刊行されなかったようである。

繁殖に興味を持つ生理学者たちは1940年代の終わりにヒツジ胎児の血液に高濃度のフルクトースが含まれていることを示し (Bacon and Bell 1949, Barklay et al. 1949, Hitchcock 1949)、Goodwin (1957)はその後にブタ胎児血液にフルクトースが多いが、生後24時間でひじょうに低くなることを示した。Alexander et al. (1955)はグルコースが胎児フルクトースの前駆体であり、変化する場所は胎盤であることを明らかにした。Newton and Sampson (1951)は論文には書かなかったが、ブタ胎児およびたぶん新生児にとってフルクトースは重要なエネルギー源であることを前提としていたに違いなかった。彼らは産後すぐのブタを得て24時間から48時間のあいだ餌を与えないか、または血液グルコースが20mg/100mlまたはそれ以下にした。これらの低血糖で昏睡状態のブタに種々の糖の溶液の静脈注射をした。グルコース注射は数分で劇的な蘇生反応を起こさせた。ガラクトースもポジティブの反応を起こしたがそれほど即時でも劇的でもなかった。フルクトースの注射は効果が無く、フルクトースを注射した6匹のブタのどれも蘇生しなかった。総括すると、Johnson (1949) and Newton と Sampson (1951)は、新生ブタはショ糖もフルクトースも有効に利用できないことを示唆した。

重要な飼育実験

1950年代の初期にはブタの早期離乳に興味が持たれておらず、生後8週で離乳するのが普通であった。また、この時代にはブタの栄養においては新しく発見された抗生物質とビタミンB12の役割に興味が持たれていた。今日では、新生ブタの人工飼育に興味が持たれ、合成ミルク食餌における効果ある炭水化物源は非常に重要となっている。

イリノイ大学のベッカー (D.E.Becker) は1日から16週までのブタの炭水化物源の詳細なテストを含む3論文を1954年に刊行した(Becker and Terrill 1954, Becker et al. 1954a and 1954b)。1日から10日のブタにカゼインと種々の糖を含む液体食餌を好きなだけ食べさせた。糖は固体成分100gのうち56.6gであった(Becker et al.1954b)。それぞれの餌で飼った7匹のうち、ショ糖食餌飼育のうち6匹死亡、フルクトース飼育は5匹死亡で、グルコース飼育は1匹のみ死亡した。生き残ったブタのうち、グルコース飼育は体重が増加したが、ショ糖またはフルクトース飼育ブタは体重が減少した。またショ糖またはフルクトース飼育ブタは激しい下痢を起こした。

種々の炭水化物源(固形物100gのうち56.6g)で7日から35日飼育したブタは、ショ糖飼育ブタ8匹のうち3匹が死亡したが、乳糖、グルコース、デキストリンまたはコーンスターチ飼育のブタでは死亡が最低であった(Becker et al.1954a)。生き残ったショ糖飼育ブタは他の炭水化物源飼育ブタと同じように体重が増加したが、死んだ3匹は激しい下痢を起こしていた。7日ブタのうちの少なくともあるものは腸管でショ糖を効果的に分解しグルコースとフルクトースをエネルギーとして利用できることを示唆した。続いてBecker and Terrill (1954)は、12週のブタはショ糖(乾燥食餌の50%)を効果的に利用できるが、半精製ダイズ・ミールに50%乳糖を含むと成長が阻害され中程度の下痢が起きることを、示した。

成長に伴う酵素活性の変化

Bailey et al.(1956)とWalker(1959)の、種々の成長過程におけるブタ小腸および膵臓の抽出液についての研究によると、腸スクラーゼ活性は新生ブタで非常に低く、1週で10倍、2週で60倍、5週で200倍になった。これに対して、腸ラクターゼ活性は出生時に高く、それか

Aherne et al.(1969a、1969b)はベッカーの以前の実験の一部を繰り返して、2日と4日のブタはショ糖もフルクトースも利用しないが、7日のブタはこれらの糖で生き残ったものの、体重の増加はグルコースまたはラクトース飼育のブタに比べてある程度、少なかった。in situ腸管ループ法および血糖測定法によると、腸粘膜におけるフルクトースからグルコースへの変換はあるとしても少なく、フルクトースは腸からそのまま吸収されることが確かになった。これらの結果は胃経管栄養実験によって確かめられた。フルクトースを3日、6日、9日のブタに注入すると血液フルクトースが顕著に増加するが、グルコースは増加しなかった。 尿フルクトース排泄は特に3日および6日のブタでは与えたフルクトースのかなりの部分を占めた。腸フルクトキナーゼ活性は3日、6日、9日のすべてにおいて非常に低く、肝フルクトキナーゼ活性は3日のブタではやはり低かったが、生後日数が経つかフルクトース摂取かまたは両方によって増加する傾向があった。

産まれたばかりのブタにとってショ糖に毒性があるのは腸スクラーゼの活性が低いことによるのは明らかである。また、ブタはフルクトースをそのまま吸収するようであり、生後1週間の肝臓はフルクトースをリン酸化する酵素が乏しく(Cori et al. 1951)、トリオース単位に代謝しエネルギーを生産する活性が弱い。生後2日のブタにフルクトースを与えると下痢を起こすことは摂取したフルクトースがすべて吸収されるのでないことを示す。したがって、一部は腸の下部に通過して、発酵性の下痢を起こすのであろう。興味あることにPettigrew et al. (1971)は出生時の血液フルクトース濃度は出生32時間の能力と逆相関することを見いだした。

若い乳牛はショ糖やフルクトースの利用に関して若いブタに似ていた (Velu et al. 1960). Huber et al. (1958) は若い乳牛の腸スクラーゼの活性が非常に低いことを示した。

残った秘密

なぜフルクトースは母親の血液には全く存在しないのに、胎児の血液では妊娠のすべての時期にフルクトースを除いたすべての還元糖を全部合わせたより多いのであろうか?Andrews et al. (1960)は胎児および生まれたての子ヒツジからの肝臓を使った灌流実験でフルクトースを二酸化炭素に代謝できないことを示した。もしもこの例が示すようにフルクトースが胎児のエネルギー源にならないならば、フルクトースの役割は何であり、胎児血液、羊水、尿膜液に多いのは何故だろうか?

フルクトースは微量にしか必要としない細胞成分の合成に必要なのだろうか?White et al. (1982)はブタ胎児で[U-14C]フルクトースが筋および肝臓のRNAとDNAに有意義に回収されることを示した。このことは胎児フルクトースが胎児で核酸合成に必要なリボース 5-リン酸の重要な前駆体の可能性を示している。

文献

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(訳者 水上茂樹)

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