西南女学院大学

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12: チアミンの補酵素機能

The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Paper 12: The Co-enzyme Function of Thiamin (Peters et al., 1929-1937)
Donald B. McCormick, Department of Biochemistry, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA

リンク:栄養学の考え方を変えさせた実験 (原論文)


後になって脚気と呼ばれるようになった特別の病気は千年以上にわたって東アジアで記録されてきた (Gubler 1991, McCormick 1988)。バタビア(現在のジャカルタ)で研究をしてきたエイクマンと続いてフレインスはニワトリをこの病気のモデルとし、1890年代に白米で飼ったニワトリは多発性神経炎となり、米ぬかに予防効果があることを見いだした。さらに1920年代にオランダ領西インド(インドネシア)のエイクマン研究所で米ぬかの必須微量栄養素の一般的性質が研究された。鳥類のモデルはイギリス・オクスフォード大学のピータース(R.A.Peters) らによってさらに進められ、彼らはハトを使った。

抗脚気因子が炭水化物代謝と関連することは日本の研究者たち (Inawashiro and Hayasaka 1928) による、脚気患者では運動後の乳酸消失が遅いとする報告によって明らかになった。オクスフォード大学の研究者たち (Kinnersley and Peters 1929, 1930) はビタミンB1欠乏の急性症状を示すハトの脳に大量の乳酸が存在すると結論した。R. B Fisher (1931)は欠乏ハトの運動後の心筋および骨格筋からの乳酸消失が遅いことを示した。

ピータースたちは欠乏ハトからの脳組織にチアミン(濃縮形で)を加えると、正常ハトからの組織と同程度に乳酸からのin vitro酸素消費のあることを示した (Meiklejohn et al. 1932)。2年後に、結晶チアミンを加えるとピルビン酸代謝の促進されることが示された (Peters and Thompson 1934)。そのころエムデンとマイヤーホーフによってグルコースがピルビン酸に分解されることが示されたので、チアミンと炭水化物代謝の直接に関係することが明らかになった。しかし、正常およびビタミンB1-欠乏動物の脳で、乳酸を加える前のピルビン酸の違いが大きくないのが不思議に思われた。

この説明はR.H.S.ThompsonとR. E.Johnson (1935)によってなされた。欠乏の脳in vivoで異常に作られるピルビン酸が検出されないのはピルビン酸が主として血液中に透過するためであった。ハトとラットを使って亜硫酸水素塩と結合する他のケト化合物と一緒にピルビン酸を測定し、ピルビン酸を2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンとして直接に分離し、比色によって測定した。彼らの結果は表1に示す。Platt and Lu (1935)が問題の原点であるアジアの脚気患者の血液と脳脊髄液のピルビン酸について同じように測定して、実験動物と人間の橋渡しをしたことは特筆するべきである。

表 1. 正常およびビタミンB1欠乏のハトおよびラットの亜硫酸水素塩結合性物質1

動物 正常 欠乏 治癒

mg/100 mL 血液
ハト 3.96 11.31 5.29
ラット 4.22 9.39

1 Thompson and Johnson (1935)より。 それぞれの平均値のうち約2.5 mgはピルビン酸ではない.

オクスフォードの研究者たちがとくに焦点を当てた発見の意義および動物を使って行われた基礎研究の広範な価値は、ピータースがQueen-Squareの国立病院で行った講演 (Peters 1936) に述べられている。”学んだこと”として次のように要約した。”現状をよく調べてみよう。鳥の脳組織の純粋にin-vitroの研究は最初にビタミンB1の検査として始まり、後にビタミンが協力する酵素を明らかにすることに発展した。これはこの問題を解決するためだけではなく、正常の代謝においてピルビン酸が存在することを証明した。生化学者のin-vitro研究を利用した脳組織のin-vitro研究はin-vivo現象に応用できることが示された。これはこの領域における重要なステップである。研究が脚気患者の血液のピルビン酸検出まで進み、診断学の役に立っていることは心強い。純粋にアカデミックな研究が終局的に実際の役に立っている例として、たしかにこれ以上のものはない”。

ピルビン酸のレベルにおけるビタミンB1と炭水化物の関係が確立されている間に、このビタミンの構造が解明された (Gubler 1991, McCormick 1988)。1932年のWindausによるビタミンB1の正しい経験式は硫黄の存在を認識させ、1936-1937年にWilliamsたちは全構造を決定し、現在チアミンと呼んでいるものを合成した。

ピルビン酸の脱炭酸にビタミンB1の関与することが認識されると、酵母のピルビン酸”カルボキシラーゼ”からアルカリ不安定な”コカルボキシラーゼ”を分離したE. Auhagen (1932)の以前の研究が新たに重要性を持つようになった。ビタミンB1に由来するこの機能を持つ補酵素の構造はLohmann and Schuster (1937)によって解明された。彼らは100kgの酵母から出発してチアミンピロリン酸を単離した。精製の過程は表2に示す。

表 2. コカルボキシラーゼがチアミンピロリン酸であることの証明1

コカルボキシラーゼの単離(100kg酵母→750mgHCl塩)
 1 熱アルコール抽出
 2 バリウム沈殿と洗浄
 3 酸性液からエタノール沈殿、メタノール再沈殿
 4 Frankonit KL吸着、熱希ピリジンで溶出
 5 メタノール・エタノールで分画沈殿
 6 ピクロロン酸塩として沈殿
 7 バリウムおよび銀塩として沈殿
 8 ホスホタングステン酸で沈殿、塩酸塩として結晶化
化学検査
 元素分析   C12H21O8N4P2SCl
 酸加水分解  ピロリン酸エステル
 亜硫酸分解  ピリミジンとチアゾール
 UV吸収   チアミンモノリン酸と同じ
生物学的検査
 ビール酵母、パン酵母よりピルビン酸カルボキシラーゼの再構成

1 Lohmann and Schuster (1937)より。

チアミンピロリン酸はピルビン酸、α-ケトグルタール酸、分枝α-ケト酸に反応する3種類のマルチ酵素であるα-ケト酸デヒドロゲナーゼの、α-ケト酸デカルボキシラーゼにおいて作用することが今では知られている。このチアミン補酵素の炭水化物代謝における第二の重要な役割はトランスケトラーゼにおけるもので、チアミンピロリン酸は五炭糖の相互変換に関係する (Horecker et al. 1953)。ヒトにおけるチアミン状態を知る良い方法は赤血球トランスケトラーゼ測定方法の進歩とともに発展した。しかし、ピータースおよび協同研究者たちの古典的な研究はチアミン補酵素機能への先駆けとして重要であり、ウィリアムスのチアミン構造の研究およびローマンとシュスターによるピロリン酸エステルの補酵素としての性質の研究は、生化学の新時代に我々を導いた。

文献

Auhagen E. Co-Carboxylase, ein neues Co-Enzyme der alkoholischen G?rung. Hoppe-Seyler's Z. Physiol. Chem. 1932; 204:149-167
Fisher R. B. CLIII. Carbohydrate metabolism in birds. III. The effects of rest and exercise upon the lactic acid content of the organs of normal and rice-fed pigeons. Biochem. J. 1931; 25:1410-1418
Gubler, C. J. (1991) Thiamin. In: Handbook of Vitamins (Machlin, L. J., ed.), 2nd ed., pp. 233-281. Marcel Dekker, New York, NY.
Horecker B. L., Smyrniotis P. Z., Klenow H. The formation of sedoheptulose phosphate from pentose phosphate. J. Biol. Chem. 1953; 205:661-682
Inawashiro R., Hayasaka E. Studies on effect of muscular exercise in beri-beri; influences of muscular exercise upon gas and carbohydrate metabolism. (Resynthesis of lactic acid, acidosis and entity of fatigue in beri-beri.) Tohoku J. Exp. Med. 1928; 12:1-28
Kinnersley H. W., Peters R. A. Observations upon carbohydrate metabolism in birds; relation between lactic acid content of brain and symptoms of opisthotonus in rice-fed pigeons. Biochem. J. 1929; 23:1126-1136
Kinnersley H. W., Peters R. A. Carbohydrate metabolism in birds; brain localisation of lactic acidosis in avitaminosis B1 and its relation to origin of symptoms. Biochem. J. 1930; 24:711-722
Lohmann K., Schuster Ph. Untersuchungen über die Cocarboxylase. Biochem. Z. 1937; 294:188-214
McCormick, D. B. (1988) Thiamin. In: Modern Nutrition in Health and Disease (Shils, M. E. & Young, V. R., eds.), 7th ed., pp. 355-361. Lea & Febiger, Philadelphia, PA.
Meiklejohn A. P., Passmore R., Peters R. A. The independence of vitamin B1 deficiency and inanition. Proc. R. Soc. B. 1932; 111:391-395
Peters R. A. The biochemical lesion in vitamin B1 deficiency. Application of modern biochemical analysis in its diagnosis. Lancet 1936; 1:1161-1165
Peters R. A., Thompson R.H.S. CXXI. Pyruvic acid as an intermediary metabolite in the brain tissue of avitaminous and normal pigeons. Biochem. J. 1934; 28:916-925
Platt, B. S. & Lu, G. D. (1935) Proc. Physiol. Soc., 3rd Gen. Congr., Chinese Med. Assoc.
Thompson R.H.S., Johnson R. E. LXXX. Blood pyruvate in vitamin B1 deficiency. Biochem. J. 1935; 29:694-700

(訳者 水上茂樹)

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