西南女学院大学

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7: 若いラットは未知の成長因子を必要とする

The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Paper 7: Young Rats Need Unknown Growth Factors (McCollum, 1913-1917)
Harry G. Day, Department of Chemistry, Indiana University, Bloomington, IN

リンク:栄養学の考え方を変えさせた実験 (原論文)


1907年7月にマッカラム (Elmer Verner McCollum) はウィスコンシン大学の農芸化学講師として学者の道を進むことになった。彼はカンサス大学化学で学士、修士の学位を取得し、イェール大学有機化学で博士となり、同大学生理化学で1年ポストドクとして研究を行った。

ウィスコンシンにおけるマッカラムの最初の主な仕事は、’若雌牛の単一穀物飼育試験’における分析化学者の役割であった。これは名誉教授バブコックの示唆によって1907年初頭にはじめられた試験であった。この試験の指導者はハートで、彼はマッカラムがウィスコンシンにいた10年間の上司であった。試験は異なる餌を与えられた4グループの比較であり、3グループは単一の穀物、すなわちトウモロコシ、燕麦、小麦だけからなる餌であった。4番目のグループは3グループの餌の混合餌で飼育された。栄養の適合度を決める近似法 (proximate method) 化学分析によると、この4種の餌は似た値を持っていることになっていた。しかし、小麦餌飼育グループの雌牛はすべて死亡した。

McCollum (1957) の自伝は、彼を含んでこのプロジェクトに関連していた人たちは、試験餌のための穀物を収穫するにあたって、トウモロコシと燕麦では葉の大部分が残ることを見落としていた。ところが、小麦の葉は弱いのでほとんどすべて失われた。このようにして、“我々は雌牛を小麦粒と茎で飼っていた”。この有名な試験についての文献でこの幸運な不備は見落とされている。

小麦餌の失敗および同時に勤勉に文献とくにマーリー年報抄録を検索することによって、マッカラムは何か必須な栄養素に気がついていない可能性を考えた。このことおよびバブコックとの討論によって、若雌牛プロジェクトそのものは意味ある新しい知識を提供しないが、新しい実り多い方向を考え進ませるものであると、マッカラムは確信した。約4月後で学部長ヘンリーおよびハートにつぎのように進言した (McCollum 1964)。

“動物の栄養要求を研究するもっとも有望な方針は純化した栄養素からなる単純な食餌で小動物を飼う実験である。小動物が望ましい理由は、少量の餌しか食べないからであり、食餌成分の精製に必要な広範囲の化学実験が可能だからである。小動物は急速に成熟し、早くから繁殖し、生涯が短い。...私はラットの使用を推奨する....”

彼らは農業試験所におけるラット使用に反対したが、バブコックはマッカラムを励まし、マッカラムは他の差し迫った研究を中止しないで、自分の研究を行った。彼は“自分で払って、1ダースの若い白ラットをシカゴのペット卸業者から” 購入した (McCollum 1964)。財源が乏しいことと実験小動物を取り扱う知識が限られていたので、試行錯誤で学び始めた。広範囲の文献の勉強から食物の味と消化され易さについてのパブロフの考えに惹き付けられた。したがってしばらくは純化した餌に人が好む種々の味をつけたが、見込みのある結果は得られなかった。しかし、これらの経験によって研究仮説の立て方や実験計画で知恵が向上した。

もっとも幸運なことに彼がウィスコンシンに来て2年後に、予期しなかったボランティアとして、マディソン住民の若いデービス嬢 (Marguerite Davis) が実験に加わった。彼女はカリフォルニア大学バークレー校の化学を卒業したばかりで、ラットの世話を申し出た。

間もなくマッカラムの食物分析の生物学的方法と言われる実験が始まった。デービス嬢が大きな貢献をした最初の決定的な論文が刊行された。“ある種の脂質(リピン)の食餌中における必要性” (McCollum and Davis 1913)である。これは彼らの食物分析の生物学的方法の初期においては予期しなかった結果であった。この論文は次のように始まった。

“昨年われわれは餌の無機物質の成分と量がラットの成長に及ぼす影響を研究してきた。この研究では純粋なカゼイン、炭水化物、純粋な試薬からなる塩混合物、を混ぜた餌と、炭水化物の一部をラードで置き換えた餌、の両方を使い、かなりの成功を収めた.....”。

これらの餌を与えたラットについてのこの萌芽的実験について次のように注釈した。

“体重が40から50gのラットは、これらの餌で3月またはそれ以上にわたり正常に成長し、次いで成長は止まるが体重や栄養状態良好の外見を数週間保ち、ある自然の食品を含む餌を与えると成長はさらに進行する。この結果から、純化した食品の混合物は、さらに成長を続けるのに必要ではあるが、それが無くてもかなり良い栄養状態を保つことができる、何らかの有機物質を使い尽くすと言う信念に導かれる” (図1参照)。

図 1 マッカラムの成長図から。この雄ラットは3%の綿実油を含む餌を7週間与えられ (period 1) 次にバター脂肪の鹸化物と震盪した3%のオリーブ油を与えられた。点線はこれらのラットの正常な成長速度である (McCollum and Davis 1914より, chart 2, rat B)

この論文で彼らはバター脂肪と卵はラードやオリーブ油には含まれない”脂質(リピン)”を含むことを示した。さらに彼らはこの有機物はエーテルで抽出できることを示した。1914年に彼らはこの脂溶性因子は次のようにしてオリーブ油に移ることを示した。

“バター脂肪を水酸化カリウムアルコール溶液で鹸化した。得られた鹸化物を水に溶かし、この石鹸液にオリーブ油を加えて丹念にエマルジョンにした。このオリーブ油は以前ラットに試して基本餌に加えて有効でなかったと同じサンプルであった。エマルジョンはエーテルで分解され、オリーブ油は溶液に回収された。エーテルを蒸発させると、このオリーブ油はバター脂肪の栄養学的性質を得たことが飼育実験によって示された” (McCollum and Davis 1914)。

2年後にマッカラムと大学院学生のケネディ (Cornelia Kennedy) はこのリピンと他の必須”有機物質”に一時的に可溶性を示すアルファベットをつけることを示唆した。このようにしてこの必須因子に”脂溶性A” (McCollum and Kennedy 1916)の名をつけることにした。間もなくこの名称は“ビタミンA”に道を譲った。

マッカラムとデービスはまた穀物の栄養欠乏の本態に焦点を当てた。とくに注目したのは米の栄養欠乏の本態であった。彼らの論文には42個の成長チャートがあった (McCollum and Davis 1915)。それぞれのチャートには実験ロットの各々のラットの成長、使用した餌、もしもあれば(添加)試験物質、などなどが与えられていた。表1にはその結果の一部を示した。序論の一部に次のように述べた。

“この論文では食物としての白米と玄米の特性を述べ、これらやその他の精製した食品と天然食品の間の補足的な関係を示している。これらの研究は食品として米の知識を広げただけでなく、正常の栄養における栄養素の理解、とくに近年’欠乏病’、壊血病や脚気と関連して注目されている未知の副次的食品成分の理解に貢献している。”

研究のかなりの部分は“自然の食品から得られるある種の抽出物と白米の間の補足的関係”であり、抽出溶媒は水、エタノール、アセトンであった (McCollum and Davis 1915)。

Table 1. 白米に種々のサプレメントを加えて飼った若いラットの成長1

ロット (雄(M)と雌(F)の数)
308
(5 M, 1 F)
316
(6 M)
317
(6 M, 1 F)
383
(3 M, 2 F)
395
(4 F)

最初の概略体重(g) 100 40 60 60 40
Diet
  白米 96 91 91 82
  玄米 88
  米ぬか 10
  塩混合物 4 4 4 2 3
  卵アルブミン 5
  カゼイン 5
  バター脂肪 5 5 5
8週間における概略の体重増加(g) 0 or less 0-15 loss 65 50

15つの異なる成長チャートより; McCollum and Davis (1915).

これは白米および玄米の“水溶性補助物質”についての質問に答えるものであった。小麦胚芽の水抽出物は白米を基礎とする餌に加えてアセトン抽出物より優れていた。McCollum and Davis (1915)は次のように結論した:”このような知識が多種の食物に得られるならば、健康を増進させる人の食事を公式化するのに大きな価値があると我々は信じている”と。このようにこの研究は穀物種子についてのすべての研究の解明に貢献した。彼らの米についての研究が進行しているあいだに、E.B.Vedderその他の脚気についての発見を学び、“小麦胚芽および卵黄からの彼らの水抽出物は抗脚気因子であると同定した” (McCollum 1957)。

マッカラムはこれらの発見を1917年ニューヨークの権威あるハーヴェー協会で講演し、次のように結論した:“これら[サプレメント]は奇妙な[まだ理解されていない]食事上の性質を持っていて、今日の化学に才能を持つものも認識できないが、生物学的試験ではすぐに示すことができる” (McCollum 1917)。

5年後に彼は“栄養学の新しい知識”第二版に次のように書いた (McCollum 1922)。

“生物学的方法は ... 最初は個々の自然の食品の欠陥的性質を発見するために開発された。この目的のためには研究対象の食物は食餌の主要な成分であり、一つまたはそれ以上の少量の精製した食品(たとえば、タンパク質、無機塩、ビタミン)[しかし 1922年でもこのような単離され科学的に同定された栄養素は知られていなかった]を加えて、食餌の価値を高めることができる少量の食品の性質に光を当てる。しかしこの方法にはもう一つの変法がある。これはどれか一つの食事成分に関連して我々のもっと重要な食物の比較的な価値について価値ある情報を与えてくれる。”

食品分析の生物学的方法についての最終的でもっとも包括的な記述は彼の“栄養学の歴史”に見られる (McCollum 1957)。

文献

Day H. G. (1974) National Academy of Sciences, Washington, DC Elmer Verner McCollum 1879-1967, A Biographical Memoir. 45:263-335
McCollum, E. V. (1917) The supplementary dietary relationships among our natural foodstuffs. Harvey Society Lecture Series 12: 151-180; also in J. Am. Med. Assoc. 68: 1379-1386.
McCollum, E. V. (1922) The Newer Knowledge of Nutrition: The Use of Food for the Preservation of Vitality and Health, 2d ed. Macmillan, New York, NY.
McCollum, E. V. (1957) A History of Nutrition. The Sequence of Ideas in Nutrition Investigations. Houghton Mifflin, Boston, MA.
McCollum, E. V. (1964) From Kansas Farm Boy to Scientist. The Autobiography of Elmer Verner McCollum. University of Kansas Press, Lawrence, KS.
McCollum E. V., Davis M. The necessity of certain lipins in the diet during growth. J. Biol. Chem. 1913; 15:167-175
McCollum E. V., Davis M. Observations on the isolation of the substance in butter fat which exerts a stimulating effect on growth. J. Biol. Chem. 1914; 19:245-250
McCollum E. V., Davis M. The nature of the dietary deficiencies of rice. J. Biol. Chem. 1915; 23:181-230
McCollum E. V., Kennedy C. The dietary factors operating in the production of polyneuritis. J. Biol. Chem. 1916; 24:491-502

(訳者 水上茂樹)

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