西南女学院大学

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8: ある種のアミノ酸は成長に必須である

The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Paper 8: Some Amino Acids Are Indispensable for Growth (Osborne and Mendel, 1914-1916)
Kenneth J. Carpenter, Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA

リンク:栄養学の考え方を変えさせた実験 (原論文)


”オズボーンとメンデル”の2人は性格がまったく違っていたが、栄養学の歴史においてもっとも重要で長続きのする共同研究を行った。オズボーン (Thomas Osborne) は弁護士および銀行家としてニューイングランドで定評のある一家の出身であり、5世代にわたってイェール大学出身であった。彼は一生ニューヘヴンに住み、学生を採らずに農業試験所で研究し、聴衆に向かうことはしなかった (Fruton 1995, Vickery 1932)。メンデル (Lafayette Mendel) は12才若く、ニューヘヴンで洋服屋をしていたユダヤ人移民の子であり、イェール大学の秀才であった。ドイツで2年間のポストドック研究の後に教員として大学に帰った。彼は教えるのを好み、自分の時間があると、若い女性および男性に卒業後の研究をするように励ました。彼の研究分野は代謝であった (Chittenden 1938)。

表 1. グリアジン (±リシン) を主なタンパク質源として与えられた若いラットの3週間の平均反応1

食餌 1
(18% グリアジン)
食餌 2
(17.64% グリアジン,
0.36% リシン)

ラット数 4 2
食べた餌, g 99 149
リシン, グリアジンから,2 mg 160 240
リシン, サプレメントから, mg 535
全リシン摂取量, mg 160 775
体重増加, g +6.2 +35.2
タンパク質増加(推測値),2 g +0.99 +5.63
リシン増加(推測値),2 mg +79 +450

1 Osborne と Mendel (1916)
2グリアジンのリシン含量は0.92%、ラット体タンパク質のリシン含量は8.0%,ラット体重増加の16%はタンパク質とみなした。

1909年に彼らが協同研究を始めたときにオズボーンは50歳ですでに20年以上にわたり種々の植物タンパク質を単離して化学的な性質、とくにこれらが動物タンパク質とアミノ酸組成が如何に違うかを、明らかにしていた。このことは動物タンパク質にくらべて栄養学的に劣ることを意味するのだろうか?このことはメンデルにとっても興味があった。何故かというと彼は数年前にイェール大学の人間を使う大プロジェクトに参加し、平均的な男性はアトウォーターの食事標準の120gから半分の60gに減らし得ることは判ったが、タンパク質のタイプについての質の問題は明らかでなかったからであった。

1909年までに何人かのヨーロッパの研究者たちは、タンパク質の酵素分解産物は成熟ラットや犬で窒素平衡を保つことができるが、酸加水分解産物では保つことができないと、報告していた (Henriques and Hansen 1905)。これは酸加水分解によってトリプトファンが分解されることによるもので、動物は直鎖アミノ酸なら合成できるが、トリプトファンのような環状アミノ酸は植物だけしか作ることができないという仮定がなされた(Abderhalden 1909)。

オズボーンとメンデルはラットにおける短期間の窒素平衡試験に疑いを持っていた。何故かというと尿中の窒素をすべて回収するのは問題があり、したがって偽のポジティブバランスになるからであった。彼らはアミノ酸を添加、無添加のさいの食事タンパク質が適当であるかどうか知る完全に満足な方法は、純化した食事成分を使って若い動物が実際に大きくなるかを調べることである、と考えていた。

彼らはデンプン、ラード、ミネラル混合物とカゼインをタンパク質源としてさえ、ラットの成長を維持するのは困難なことがすぐに判った。乾燥した”無タンパク質ミルク”、すなわち酸性にして沸騰させてタンパク質を分離したミルク、を加えると成長が良くなった (Osborne and Mendel 1911)。バター脂肪を加えると成長は続いて動物の成熟体重に達した (Osborne and Mendel 1914)。グリアジンをカゼインの代わりにタンパク質源にすると3月のあいだ体重はほとんど変化しなかった。しかし、リシンを加えると成長が良くなった。

この頃には幼稚な重量分析法しか無かったので、グリアジン(小麦タンパク質)にリシンが含まれないと思っていた。したがって、ラットはグリアジンだけをタンパク質源として体重を保つので、体重維持にリシンは必要ないと思われた。しかし、リシンの改良分析法によってグリアジンは0.9%リシンを含むことが1915年までに判った。ラットの筋はこれまで分析された動物の筋と同じように8%リシンを含むとみなすと、ラットの新しい組織のリシンの一部は遊離アミノ酸サプレメントに由来するものと彼らはみなした。彼らはこの考えを支持する実際の計算を報告してはいないが、表1は彼らが計算できたし、たぶん行ったであろうと考えられる推定を示している。

リシンは環状構造を持たないが、明らかにラットは合成できない。これは重要な問題点であった。動物が合成できないのは環状構造を持つアミノ酸であると考えられてきたからであっった。ところが一方、ラットは自分自身の組織のアミノ酸組成と大きく異なる食餌タンパク質で維持することができた。

この考えは彼らが平行して行っていたゼイン(トウモロコシのタンパク質)で確認された。ゼインはリシンだけでなくトリプトファンとグリシンも完全に欠いていた (Osborne and Mendel 1916)。彼らは個々のラットの成長曲線をゼインをもとにして作った。彼らはサプレメントを時々変更したからであった。しかし、表2は飼育の最初の数週間の結果をまとめたものである。

表 2. 18%ゼインをタンパク質源として与えられた若いラットの3週間の平均体重変化1

ラット数 アミノ酸サプレメント (g/100 g) 平均体重変化 (±SD)

g
22 None −20 (± 5)
6 0.54% トリプトファン −7 (± 6)
7 0.54% トリプトファン + 0.54% リシン +22 (± 5) 
[コントロール食餌における正常の体重増加] [+35]

1Osborne と Mendel (1914).

トリプトファンが無いとラットの体重が減少することは明らかである。リシンが無くてもトリプトファンがあればまだ減少は少ないが、平均として体重は少し減少した。両方のアミノ酸があるとかなり急速に成長し、最高の速さの約三分の二であった。彼らは以前のWillcock and Hopkins (1906)と同じように、トリプトファンが無いときの急速な体重減少は、このアミノ酸トリプトファンは何か特別な優先的な機能を持っているので、供給するために組織の分解が必要であり、存在するときにはタンパク質の分解は少ない、と結論した。

この研究はタンパク質の質を決定するものとしてアミノ酸組成の重要性を明らかにし、アミノ酸に次の3つのタイプがあることを示した;すなわち、リシンは動物体内では合成できずほとんど主に成長のために必要であり、トリプトファンは維持のためにも成長にも必要であり、グリシンは体内で合成できるので供給が不足することはない。

オズボーンとメンデルが適切な栄養の指標として長期間の成長に固執したことは、ウィスコンシンのマッカラムグループの研究とともに、ビタミンを探すとともに、必須アミノ酸をさらに発見する、新しい道を開いた (Becker 1968, Carpenter 1994)。

文献

Abderhalden E. Weiterer Beitrag zur Frage nach der Verwertung von tief abgebautem Eiweiss in Tierischen Organismus. Z. Physiol. Chem. 1909; 61:194-199
Becker, S. (1968) The Emergence of a Trace Nutrient Concept through Animal Feeding Experiments. Ph.D. thesis, University of Wisconsin. University Microfilms Inc., Ann Arbor, MI.
Carpenter, K. J. (1994) Protein and Energy: A Study of Changing Ideas in Nutrition. Cambridge University Press, New York, NY.
Chittenden R. H. Lafayette Benedict Mendel, 1872-1935. Natl. Acad. Sci. Biogr. Mem. 1938; 18:123-155
Fruton J. S. Thomas Burr Osborne and chemistry. Bull. Hist. Chem. 1995; 17:1-8
Henriques V., Hansen C. ?ber Eiwessynthese im Tierk?rper. Hoppe-Seyler's Z. Physiol. Chem. 1905; 43:417-446
Osborne, T. & Mendel, L. B. (1911) Feeding Experiments with Isolated Food Substances. Carnegie Inst. Washington. Publ. 156.
Osborne T., Mendel L. B. Amino-acids in nutrition and growth. J. Biol. Chem. 1914; 17:325-349
Osborne T., Mendel L. B. The amino-acid minimum for maintenance and growth, as exemplified by further experiments with lysine and tryptophane. J. Biol. Chem. 1916; 25:1-12
Vickery H. B. Thomas Burr Osborne, 1859-1929. Natl. Acad. Sci. Biogr. Mem. 1932; 14:261-304
Willcock E. G., Hopkins F. G. The importance of individual amino acids in metabolism. J. Physiol. 1906; 35:88-102

(訳者 水上茂樹)

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